祖父さんのトランクス5枚
ある日、祖父が履こうと買っていた新品のトランクスが5枚で見つかった。祖父は介護が必要となりこの通常のトランクスを履くことができなくなった。柄はいかにも年寄好みのもので若い男が履こうとは到底思えない代物だった。僕もそのような気持ちで履く気などこれっぽっちもなかった。トランクスは廊下に放置され毎日目についたが素通りしていた。
1ヶ月ほどたった今日7月31日。いつものように放置されたトランクスがその日はいつになく強烈な輝きをもって僕の目に飛び込んだ。この年寄好みの奇妙な若者には理解し難い柄が今まで履いてきた下着とは異彩を放ち急にカッコ良く見えた。そして僕は履いているボクサーパンツを脱ぎ捨てその1枚に履き替えた。一瞬の衝動により僕はまた新たな発見をした快感が股間から染み渡り「俺は今世界で1番クールなパンツを履いている!」という高揚感が芽生えた。その夜、風呂上りにまた新た2枚目に履き替えた。
自分はとことん天邪鬼だと思う。通常クールなものをクールだと共感はできるけれど、絶対にその領域に踏み込みたくないという天邪鬼。初めはダサいのがクールなんだ!と言っていたのが、偽物が本物になるように本当にクールなものとして一般的にダサいものが見えてきている。
人間の価値観というものはあまりにも軽い。このまま行くと鼻毛が出ているのがクールだ!なんてなるんじゃないのかと、祖父さんの顔を見て思った。